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冬の到来

ヨーロッパを、南北に反復移動して、季節を行きつ戻りつしつつ、働き続ける2007年の秋。毎週どこかで強化合宿をしている、プロの陸上選手みたいな生活。

10月の第2週には、季節の時計を2ヶ月も元に戻したような、日中の気温は25度というローマへ飛び、1週間のデザイン・ワークショップを行った。久しぶりにイタリアの喧騒とカオスと戦いつつ、デザインプロジェクトを仕上げる。これは、なかなかヘビーで、ベルリンに戻った次の朝は、全身打撲状態。体中が痛い。あらためて、イタリアって、本当にヘビーな国だったんだなあと思う。みしみしと起き上がって、窓から眺める静寂のベルリンの森は、紅や黄色に染まり始めていた。

それから1週間おいて、エストニアに飛ぶと、今度は、季節の時計が1ヶ月進んでいて、落ち葉の季節はすでに終わっており、冬の梢の下を、現地の人は、すでにオーバーコートに手袋に帽子という冬のいでたちで歩いていた。1週間後、ベルリンに戻ると、目の前のポプラの木は、黄金色の葉っぱを、絶え間なく振り散らして、晩秋の落ち葉は、森の小道をすっぽりと覆っていた。そんなベルリンの秋の終わりを見届けることなく、また1週間後、エストニアに飛ぶと、ランディング間近の飛行機の窓から見えるエストニアの土地は、すでにうっすらと雪に覆われていた。聞けば、1日前に初雪が降ったという。

飛行機の中の、閉じられた生暖かい空気から解き放たれて、飛行機のタラップを下りる。冷たい海の上を渡ってきた空気で、初冬の深呼吸する。手袋なしでは、3分もたたないうちに、手がしびれて痛くなってくるような空気だけれど、こういう、きりっとした冬の空気は大好きだ。

今回の1週間も、大学内をフルマラソン状態。すべてをゼロから立ち上げる加速時期なので、パワー全開でもまだ足りないくらいだ。しかも、大学の仕事をし始めて以来、どういうわけか、いつも私の研究室はエレベーターなしの最上階にある。ベルリン芸大では、エレベーターから遠いところにある階段室で上ったところの6階にあり、これが階高の高い古い建物だったから、日本の建物なら8階ぐらいの階段量。かなり鍛えられた。もっとも、こういう場所に研究室があると、口うるさい年寄りの教授が偵察に来たりすることもなくて、おかげで誰にも邪魔されることなく、好きにやらせていただけたし、この階段の5合目で、もうふうふう言っている学生は、体力不足ということで、容赦なしに、蹴落とさせていただいたので、まあ、悪い事はなかった。

9月から仕事を始めたエストニア芸大では、建てかえを目前にした古い建物の5階。一人乗りの、金属の棺おけが縦に動いているような、ソビエト時代のエレベーターが1台あるが、動くたびに、ぎりりぎりりと音がするし、階高ピッタリで止まらず、10センチ上だったり、10センチ下だったりするので、こんなものの中で、一人で死ぬのだけは勘弁してほしいと、初日から敬遠。大学のカフェや、総務のオフィスは1階にあるので、日本の建物なら7階分くらいの階段を、一日に10回以上、駆け上り、駆け降りすることになる。

今回の滞在最終日の金曜日は、大学を出たり入ったりのスケジュールがみっちりで、しかも、滞在しているホテルのフロントに鍵を返すのを忘れてチェックアウトをする、という大ポカをやり、秘書からの電話で、あわてて大学からホテルまでの往復ダッシュ。そういうトライアスロン最後の寒中水泳のような「おまけ」までついて、帰りの飛行機は、着席するなりまた気絶して、ベルリンへワープした。

ベルリンで飛行機のタラップを降りると、空気が柔らかい。そうだ、ここでは、まだ冬は始まっていなかったんだ。エストニアとドイツの間には、1時間の時差があるので、腕時計の時間をベルリン時間に戻すと共に、自分の中の季節の時間もちょっと元に戻す。手袋はポケットに入れたまま、空港を出て、タクシーに乗って家に向かう。戦勝記念塔の上の金色の女神が、曇って白っぽい闇の中で、おかえりなさ~い、と手を振っているのに迎えられて、よれよれと帰宅。ただいま、ベルリン。私のニーマイヤーハウス。

あくる朝目覚めると、抜けるような青空。葉っぱのすっかり落ちた梢に、朝日が射している。夏の間は、葉っぱに隠れて見えていなかったベルリンのテレビ塔が、梢の向こうにきらきらしている。エストニアに飛ぶ前のベルリンも、エストニアも、曇りに雨の天気だったから、久しぶりに晴れの日だ。と思いきや、昼を過ぎると一天にわかに掻き曇り、ばらばらと大粒の雨が降ってきたかと思うと、これが大粒のあられで、やがて静かになったかと思ったら、急に風が強くなり、霰はそのまま雪になって、窓の外は、いきなり大吹雪。ベルリンの初雪だ。30分ほどで、雪はやんでしまい、やがて雲が割れて、また何事もなかったのかように、太陽が射してきた。北の国の冬の到来である。


阿部 雅世 公式サイト MasayoAve creation  www.macreation.org









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