SSブログ

野良はち-ゲスト・オブ・ザ・イヤー2010

2010年の夏は、人生初めてともいえるような長い夏休みを取って、「ベルリンから出かけない生活」を堪能した。自分が動かないでいると、お客さんを迎えたり、もてなしたりすることもできる。

8月も半ばを過ぎて、日差しがだいぶ柔らかくなってきた明るい夏の午後、おもてなしのアップルパイをつくろうと、リンゴをくつくつと煮てパイ皮で包み、オーブンに入れた。良い色に焼けてきたので、オーブンから出して、アツアツのところに包丁を入れると、リンゴと一緒に煮たシナモンの甘い香りが、部屋じゅうに広がる。人数分のお皿に、パイを切り分けていたら、よい香りが窓の外まで流れていったのか、開けてあったキッチンの上窓から、はちさんが飛び入りしてきた。よほど味見をしたいとみえて、窓辺のティーテーブルの上に置いたパイのまわりを、ぶんぶんと飛びまわっているので、それならば、よろしかったらどうぞ、と、パイ皮のかけらを、窓枠のところにおいてみた。

20101115_4.jpg

おお、ここまで喜んでいただけるとは!

そして、この日から、9月の終わりごろまで、毎日のように、はちさんをお迎えし、もてなすことになった。はちさんは、間違いなく、2010年のゲスト・オブ・ザ・イヤーである。通いの野良猫というのはよく聞くけれど、はちも同じことをするとは知らなかった。というわけで、今日は、その「野良はち」の話。

アップルパイの香りに誘われて飛び込んできたはちさんは、しばらくのあいだ、パイ皮に体を突っ込むようにして、もぐもぐしていたが、やがて満足したのか、出て行ってしまった。左の羽根が、ちょっと欠けているはちさんだった。まあ、喜んでもらえてよかったよかった、と思っていたら、あくる朝、同じはちさんが、また上窓から朝日の差し込むキッチンに入ってきた。もうパイはないけど、はちさんは何が好きなのか、まさかね、と思ったが、ちょうどミルクティーに蜂蜜を入れようとしていたところだったので、小さなエスプレッソ用のスプーンに、ちょっと蜂蜜をつけて、良かったらどうぞ、と差し出してみた。

i400-100904_HACHI00.jpg

うまいうまい。

i400-aDSCF2496.jpg

ほんとに、うまいです。

i400-aDSCF2511.jpg

ぷは~っ。

一心不乱に蜂蜜をなめていたはちさんは、ぷは~っ、と一息つくと、羽根を震わせて、重そうに垂直上昇して、上窓からプーンと外へ出て行った。普通なら、あちこちの花を飛び回って、ちょっとずつ集めなければならない蜜が、こんなにどっさりとふるまわれたから、天国だったのかもしれない。南ドイツの森で採れた混ぜものなしの蜂蜜だったので、お口にあったのかもしれない。まあ、はちさんが喜んでなめる蜂蜜なら、安全なよい食品である気もする。

よかったよかった・・・と思っていたら、はちさんが戻ってきた。はちさんは、また蜂蜜をなめ、そしておなかがいっぱいになると、また重そうに垂直上昇して、上窓から外へ出て行った。はちさんは、何度もそれを繰り返し、スプーンの蜂蜜を全部なめてしまった。

i400-aDSCF2527.jpg

はちさんは、毎日、やってきた。気がつくと、スプーンがきれいになっていて、そのたびに、蜂蜜を補給しておいた。10日ほど経ったら、はちさんは来なくなった。スプーンのはちみつは手つかずのまま2日が過ぎたので、ああ、はちさんの季節も終わりかな、と思い、はちさん用の皿とスプーンをかたずけたが、それから3日ほどして、ティーテーブルの上に置いたままにしていた、朝のエスプレッソコーヒーのカップをかたずけようとしたら、カップの底にわずかに残っていた砂糖とコーヒーのどろどろに、はちさんが浸かってジタバタしていた。あら~たいへん!。羽根にも、脚にも、砂糖のシロップが絡みついて、カップから出ることもできなくなっている。

いそいでボールに水を張って、スプーンにはちさんをつかまらせると、ジャブジャブとなんども行水させた。そのうちに、羽根はすっかりきれいになったので、「いや~、蜂蜜なくて悪かったねえ、災難だったねえ」と、お皿の上で休んでもらい、たっぷりと蜂蜜をふるまうと、と、また一生懸命召し上がった。せっかくなので、写真に撮ろうとよく見ると、前に来たのとは違う、羽根が欠けてないはちさんだった。

i400-100904_HACHI02.jpg

あ~、生き返る!

i400-100904_HACHI06.jpg

うまいうまい。

i400-100904_HACHI05.jpg

あーうまい。

そうするうちに、羽根が乾いてきて、おなかも一杯になったらしく、羽根を何度かすごい勢いで震わせると、垂直上昇して上窓から出て行った。そして、そのあと何度も戻ってきては、蜂蜜をなめ続けた。

i400-100904_HACHI03.jpg

たまらん。

i400-aDSCF2522.jpg

ぜんぶなめた。

それから毎日通ってきたこのはちさんが、ぱたりと来なくなると、また、もう一匹別のはちさんがやってきて、いつもの蜂蜜をうまいうまいと平らげていった。 最初のはちさんが、あそこへ行け、と、遺言でも残したんじゃないかと思うほど、どのはちさんも同じようにやってきて、同じように蜂蜜をなめて行ったが、10月に入る頃になると、もうはちさんは来なくなり、そろそろ上窓を閉める季節になった。

これが、昨年の特別なお客様のはなし。私の中で、はちさんは、かなり特別な存在になった。今年も、やってくるかしら。

 

***************

阿部 雅世 公式サイト MasayoAve creation  www.macreation.org

*記事、写真の無断転用は、ご遠慮ください。 転用ご希望の方は、info@macreation.org まで、ご一報ください。

 


nice!(1)  コメント(0) 

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。