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中古自転車と「本当の豊かさ」(2)

そういうわけで、手に入れたいのは、私に似合うサイズ、スタイルで、昨日まで乗っていました、という感じに使い込まれた中古自転車。なにしろ、これだけの自転車天国のベルリンだから、その気になって町で観察すると、実にいろいろな自転車がある。

 

前2輪、後1輪、または、その逆の、大人用三輪車で、相当のものを運べる、実用一筋といった自転車(魅力的!)もあるし、ペダルが自転車の正面についている車体の低い自転車に、仰向けに座って、というよりも寝て、「バックでバタ足」のようなスタイルで漕いでゆく、アクロバット的なものもある。

 

小さな子供2人が並んで座れるフード付きの、おしゃれな小型リヤカーみたいなものを、自分の自転車の後ろにくくりつけ、朝、幼稚園まで颯爽と飛ばしてゆくお母さんも、よく見かける。人力車である。

 

あとスタイルとして一番可笑しかったのは、ハーレーデビッドソン型の自転車で、サドルが広く大きく、背の高い背もたれが付いていて、ハンドルが頭くらいの位置までぐーんとあがっていて、車体は黒とシルバー。大学の学食の前に止めてあった。どんな人が乗っているのかしら、イージーライダー風?まさかね。と思ったら、まさに、イージーライダーの衣装で、にこりともしない持ち主が登場したから、一緒にいた学生と大笑いしてしまった。子供の頃、近所に仮面ライダーのお面をつけて、仮面ライダー自転車にのっていた子がいたのを思い出す。(これが、オトコノロマンというものか?)。

 

それから、自転車じゃないけど、いかにも自由で気持ちがよさそうなのはローラースケート。ちょうど春先に、日本の荒川選手が、冬季オリンピックで金メダルを取ったので、日本人教授としては、スケートでさっそうと大学入り、あの金色のベルリンの天使の像が立っている巨大なロータリーでイナバウアー、というのも考えたけれど、考えただけ、考えただけ。やりません。だいたい、あれは、よく考えると、身軽そうでいて、ヘルメットにサポーターと重装備でないといけないし、大学で別の靴に履き替えないと具合が悪いから、めんどうだ。だめだめ。

 

いろいろ見たけれど、やっぱり、ごく普通の、でも機能はちゃんとした自転車がいい、という結論に達して、そういうのは、どこで手に入れられるかしら、不用品情報がでている新聞みたいなものはあるのかしら、と学生に聞いたら、みんな口を合わせてイーベイがいい、と即答する。イーベイというのは、日本で言うと、ヤーフーオークションのような、個人オークションサイトで、不用品一大バザールとして、ヨーロッパ、アメリカ、では、ものすごく普及しているそうだ。イタリアでも聞いたことはあったけど、使ったことはなかったので、この機会に学生にレクチャーを受ける(ああ、どちらが教授かわからない)。

 

ドイツのイーベイのサイトに行き、どういうものが出品されているかとみると、出ていないものはない、というくらい、何でもある。本当に何でもある。自転車や生活用品だけではなく、家や別荘、家庭菜園用の庭、まである。出ていないのは、生き物くらいではないだろうか。まさに、ネット時代のインターナショナル蚤の市!すごい世の中になったものだ。日本は進んでいるから、いまごろ何を寝ぼけたことを、と思われるかもしれないが、私は知らなかったので、とても驚く。

 

ネットオークションのトラブル、というのも、日本のニュースで見たので、トラブルはいやだなあ、とちょっと心配したけれど、イーベイのサイトには、この出展者は信頼できるかどうか、ということを示すのに、過去の落札者のコメントの一覧が見られるようになっていて、たとえば、出品者が商品を発送しなかったり、写真とコンディションが違う粗悪品を送ったり、発送が遅かったり、梱包が悪かったりしたときの、落札者のクレームや、すばやい対応、ありがとう!とか、満足です!という、喜びの声も、掲載されて、それによって、この人は、過去何点出展して、クレーム何件、よって、信頼度100%とか、99.8%いう評価が出ている。過去3ヶ月の評価、6ヶ月の評価、1年間の評価、も、ひと目で見られるようになっている。

 

それから、出品者から、「発送なし、直接取りに来られる人のみ」 とか、「国内発送のみ」、「世界中発送可」など、の条件が出ていたり、落札希望者は、国内、ワールドワイドだけではなくて、自分の郵便番号を入れて、国を問わず、そこから、10キロ圏内、20キロ圏内、50キロ圏内、100、200、300キロ圏内・・・、というのを選ぶと、その圏内で出品しているものだけが、リストになって出てきたりもする。国境のそばに住んでいる人もいるし、車で移動に慣れている人には、いい目安になる。地続きのヨーロッパならではかもしれない。

 

私は車に乗らないし、公共交通に乗って自分で取りにいける範囲の、家から10キロ圏内で探すのがベストだ、何よりも買う前に状態を確認できるから、というアドバイスを、学生から最後にもらう。

 

大学から家に戻る途中、近所のクリーニング屋に、イーベイなんとか・・、と看板が出ているのが目に入る。何かしら。入っていって聞くと、たとえばパソコンをもっていないとか、インターネットは使っていないという人でも、不用品があったら、そこへ持ち込めば、デジカメできれいに写真を撮って、サイトに乗せて、落札者がいれば、発送から、お金の受け取りまでを、ちょっとの手数料でやってくれるのだと言う。そんな説明を聞いている間にも、古い照明と花瓶を、おばあさんが持ち込んでいた。ほんとうに、みんなイーベイを使っているんだ。前のブログに書いた、日曜日のがらくた蚤の市もそうだったけれど、「捨てない国ドイツ」というのが、ここにも見えるような気がした。

 

家に戻って、サイトは全部ドイツ語だから、すいすいとはいかないが、よちよちと、家から10キロ圏内という条件を入れて、探しているのは「自転車」、と入れてみたら、その条件で出品されている自転車が一覧になって出てきた。

 

自転車のなかでも、いろいろカテゴリーがある。男性用、女性用、若い女性用、少年少女用、子供用・・・(自転車関連のドイツ語は、あっという間にこれで詳しくなる。)

 

ドイツの大人用の自転車は、男性用も、女性用も、私にとっては、ハイシドードー、ほとんど馬!と呼んでもいいくらい、サドルが高いところにある。足が届かないのはだめだ。敬遠する。

 

一輪車もあった。論外。サーカスじゃないんだから。

 

子供用、でさがすと、「こ、これは、いくらなんでも」という補助輪つきの本当に子供用の自転車が出てきたりして、では、実はもう若くないけど、若い女性用。いくつかあって、そのうちのひとつは、ひそかにほしいな、と思っていたモスグリーンの色で、普通の形だけど、うーん、足とどかないかな。

 

では、ほかには?ほかには?・・・、と探しているうちに、少年少女用、という、シティーバイクというか、マウンテンバイクみたいな形のが出てきた。

 

「4年前400ドイツマルク(200ユーロ)で購入。メーカー、シマノ。5段ギア。ブレーキ、タイヤOK。コンディション良好。照明はついていません。24インチ。取りに来ていただけるなら、購入前に試し乗りOK・・・。」

 

シマノといえば、競技用の自転車も作っている、日本のメーカーだ。写真は、全体が見える写真1枚に、ディテール写真が何カットかついていて、コンディションがよさそうなのがわかる。傷や、ちょっとさびているところなども、ズームした写真に、「ここにちょっと傷があります、機能には影響なし」などの解説も、丁寧についている。信頼できそうだ。そういうのが、ぜんぜんなくて、そうとうぼけた写真で、もしかして、雨ざらしのさびさび?と疑いたくなるような自転車もいくつか出品されていたから、それに比べたら、すごくしっかりしている。きっと、出品者は、正直でまじめな人なのだろう。

 

形はボーイッシュだけれど、車体のパイプが斜めになっているので、スカートでものりやすそうだ。色は、日本ではあまり見ないタイプの、少し紫がかった藍色。本当は、モスグリーンのが、ほしかったけれど、この色も悪くない。落札期限までに、あと2日。スタート価格は、1.99ユーロ。「取りに来て、引き取っていただけるなら、お金はいらないくらいですよ」、という謙虚な姿勢が見える。いい感じ。現在の価格は、34.50ユーロになっていた。

 

ところで、24インチって、どのくらいだっけ。少年少女も、ドイツでは結構大きい。確かめたほうがいい。こういうときは、実物で見るに限る。実物の自転車が並んでいるのは、なんといっても自転車屋だ。見るだけなら、新しくてもいい。イエローページで自転車屋を探す。

 

ちなみに、イエローページとは、日本では、タウンページとよばれている業種別になっている電話帳。新しいところで暮らしたり、仕事をしたりするときに、私が「デザイナーのバイブル」と呼んで、ガイドブックよりも先に入手する生活必需品。それも、一般家庭用ではなくて、企業用のもの。業種別に、その町にある産業に関わるものが、すべて掲載されていて、イエローページの厚みを見るだけで、その町の産業がどのくらいあるか、一目でわかる。たとえば、ミラノは、厚さ4センチのボリュームが2冊。ベルリンは、4センチのボリュームが1冊。南仏のカンヌやニースのある観光地、コートダジュールでは、2センチくらいのぺらぺら、中は大半が、ホテルや観光産業だった。中に出てくる業種とその割合を見れば、その土地で何が作れるのか一目瞭然なので、知らない土地で、何かをデザインするような時、このイエローページは本当に役に立つ。眺めているだけで、その土地のことがわかるので、世界地図に並ぶ、私の「愛読書」である。

 

で、そのベルリンのイエローページで、「自転車」という項目を引くと、さすが、自転車の町、自転車専門店から、自転車修理、貸し自転車屋まで、結構ある。でも、一番近いところで、うーん、歩いていくには、ちょっと距離がある・・・

 

そこで思い出したのは、そういえば、少年少女用の自転車は、家のすぐそばにある図書館の前に、いつもずらりと並んでいたじゃないの。早速行ってみる。あるある。このくらいだったら、足は届くな、と見ていると、来ました、所有者の男の子。「ねえ、これって、何インチ?」「24!」よーし、ぴったり。24インチOK。

 

それから、他の自転車の落札状況を観察する。悪くなさそう、という自転車の最終落札価格は、70ユーロ前後だった。そのくらいが相場らしい。OK。もっと安く落ちるのもたくさんあったけれど、みるからにさびさびだったり、あまり説明もなくて、ブレーキきくのかなあ、と不安になるようなものだった。安くても、そういう自転車は困る。「購入前に試し乗りOK」とまで書いてあるものは、他にはなかったから、この少年少女用はいけそうだ。コンディションがいいのなら、100ユーロくらいは出してもいいというつもりで、落札3分前、72.80ユーロになったところで、最高価格100ユーロで入札したら、前の人は降りてしまったらしく、72.80ユーロで、無事落札。ドイツ語でこなした、初めてのオークションだから、感慨ひとしお。ひとりで万歳三唱。

 

それから、「おめでとうございます。この品物はあなたが落札しました!」というお知らせとともに、出品者のメールアドレスが知らされてきたので、「取りにうかがいたいと思いますが、場所はどこでしょう、何日の何時ではいかがでしょうか」などと、つたないドイツ語で!やりとりして、アポイントメントを取る。仕事ではないのだから、つたなくても、その土地の言葉でないと。できた、アポとり。

 

指定された引き取り先の家は、まだ行ったことがない、ベルリンの東南のはずれの、大きな森と湖がある地域だった。電車とバスを乗り継いで、バスの終点。庭のある一軒家や、低層の集合住宅が森沿いに並ぶ、静かな住宅地か、別荘地か、という感じのエリアだった。番地を調べて、あった、あった、ベルを押すと、人の良さそうな丸顔のおじさんが出てきた。手入れの行き届いた芝生の裏庭に私を案内すると、「娘に買ったんだけど、すぐ背が伸びちゃって、もう乗らないんでね。買っていただいて助かりますよ。コンディションはいいですよ。」と、すでに庭に出してある自転車を見せてくれる。

 

きれいな自転車。中古といっても、売るにあたり、おじさんが綺麗に磨いて、油を差したらしく、ぴかぴかだ。よく手入れが行き届いているから、「使い古された」とか「何年も放置されていた」、という感じはなく、数年前に買って、毎日乗っている自転車、というイメージにはぴったりだった。色も、写真で見ていたよりも、もっときれいな紺色。この色なら、私がよく着るどの服にも合いそうだ。いや、これにあわせて、服を作ってもいいくらいだ。

 

「どうぞどうぞ、乗ってみてください。」と、おじさんは、ニコニコして勧める。

 

座席がちょっとまだ高い。私ってそんなに小さい?と思いつつも、座席をもう少し下げてもらって、一回りする。足とどく。ブレーキOK。ギアチェンジOK。買います。

 

封筒に、お釣りがなくていいように入れてきた72.80ユーロを出すと、いやいや、わざわざ遠くから取りに来ていただいたから、といって、おじさんは70ユーロだけうけとって、小銭は返してくれた。

 

帰りは、バスに乗らずに、森に沿って、電車の駅まで自転車に乗ってゆく。ハンドルも、バランスもよく、タイヤもしっかりしている。なによりも、サイズがちょうどよくて、今日初めて乗ったとは思えないほど体になじむ。快適。駅ではエレベータ-で自転車と一緒にホームに上がり、自転車マークの車両から、電車に乗り込む。まるで、毎日そうしているような顔をして。もう、どこからみても、毎日乗っている私の自転車だ。誰も、まさか、たった15分前に買ったばかりのものとは思うまい。

  

この自転車探しのおかげで、イーベイを知り、自転車関連用語を覚え、ベルリンの新しいエリアを知った。ただお金を持って、新品を買いに自転車屋に行ったら、知ることはなかったことばかりである。ドイツ語でなんとかする、という自信も、お金さえ出せば何も言わなくても自転車が買える店では、絶対に得られない。これが、お金では買えない、この自転車についてきた豊かさだ。

 

いずれにしても、ベルリン生活スタートの貴重な記念品。長く大切に乗ろうと思う。前の持ち主の娘さんと違って、私はもう大きくならないから、この少年少女サイズで一生行ける。

 

 

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阿部雅世公式サイト MasayoAve creation  www.macreation.org

 


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kater

私も去年同じシマノの24インチのキッズ用という自転車を譲ってもらいました。日本に帰国される方の家具を見に行ったときに見つけ、「でもー、これ子供用よ」といわれたのですが、試すとサイズはぴったりで。もとは400ユーロということでした。受け取ってから見てみるとランプ、ベルが壊れてつけるところも折れていたりするので直す気力がなく、ひと夏放置してしまいました。
ここ、シュットットガルトは盆地なのでベルリンほど自転車がポピュラーでなく、新品を売ることに自転車屋は大忙し、修理なんて夏の間は一切うけてくれない、という状態だったので。
でも、阿部さんのブログを読んでちょっと直し、キッズと書いてある部分はペンキを塗って愛車にしようと思い直しました。
by kater (2007-09-25 18:13) 

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