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ゆばーばのごとく、ぜにーばのごとく

学年末を迎えようとしているので、今週は、学生とのミーティングの嵐。

 

ベルリン芸大での仕事は、全員でひとつのデザインプロジェクトをまとめるワークショップでスタートしたけれど、そのあとは研究室としての研究チームと、卒業に向かってそれぞれがプロジェクトを進める学部生の講座に分けて、新学科を指揮している。

 

私の最初のワークショップからついて来ている学部生たちは、来学期からディプロマといわれる卒業制作に入るので、今が、今学期のプロジェクトの仕上げと卒業制作の準備の最終段階。だから、個別のミーティングの予約がつぎつぎと入る。

 

ミラノからベルリンに毎月通っていた頃は、ベルリンに滞在できる日にちが限られていたから、滞在中は、朝から晩まで、内科の医者のごとく、学生をみているような感じで、最後の学生は、空港までのバスにくっついてきて、チェックインぎりぎりまで空港で話をするようなこともあったけれど、ベルリンに引っ越してきてからは、それぞれのプロジェクトの進行に応じて、ミーティングを組めばよいので、だいぶ楽になった。

 

昨日一番のミーティングは、朝7時半。素材の応用実験に取り組んでいるギゼラという学生の試作品が、前日の夕方やっとあがって、それを、別の工場で又加工しなければならないけれど、その前に見てほしい、ということで、朝の7時半は彼女のリクエスト。ギゼラは、ベルリン芸大サイレント革命の中心人物の一人でもあった学生で、素材の新しい可能性を探る実験が得意な、南ドイツ生まれの女子学生だ。

 

なぜ7時半かというと、これなら1時間ミーティングをして、自転車でそのまま2つ目の工房に駆けつけて9時前。加工のトライをワンセット午前中いっぱいやって、もし、うまくいかなくても、まだ午後がある。そうそう、それでいい。その調子、その調子。

 

夏時間を採用していることもあって、ドイツの日の出は早い。窓が思いっきり東を向いているので、日の出ととも目が覚めてしまう。北国と言っても、湿気がないせいか、そのまま寝ていたら、ベッドの上で日焼けしちゃいそうな強烈な太陽だ。だから、7時半なら、こちらも小さな一仕事を終えた後。準備万全である。大半の学生は、自転車で行き来できる距離のところに住んでいる。こういう都市の規模はとてもいい。私も終わらせなければいけないプロジェクトがいくつもあるので、朝9時前に、ひとつミーティングがこなせてしまえば最高だ。

 

芸術大学であるせいか、朝はのろのろ10時くらいから初めるのに慣れていた学生たちだけれど、そんなペースで、世の中が絡むプロジェクトにおいて、仕事になると思ったら、大間違い。工場は8時半から開いてる。なぜ朝早くスタートしたほうがいいのか、身をもってわからせたら、あっという間に、こういうペースで自分から動けるようになった。こちらが先頭きって走り出せば、3日で学生の顔つきは変わる。全速力の面白さをわかってきたら、あとは一人でどんとん行動できるようになるものだ。

 

学生の要請で、客員教授を勤めることになった私だが、学生に対しては厳しい。私の講座に参加するのに、特に、その初めの顔合わせにおいては、その厳しきこと、湯屋最上階でちひろを迎えた「ゆばーば」のごとくである。

 

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大学で教えることは、私の目的でもないし、希望でもない。私には自分の仕事があるし、3年という限定期間とはいえ、貴重な時間を割くのだから、中途半端な学生しかいないのなら、さっさと降りさせていただく、と、釘を刺してある。

 

世の中に出てから、厳しいことがわかったって遅い。特にヨーロッパは、インハウスデザイナーというポジションは、ないに等しいと言っても過言でないくらい限られている。またインハウスでは、むしろ技術者としての技能を問われるので、新しいことを提案してゆくようなプロの自立したデザイナーとしてやっていくには、自力で勉強し、説得し、実現してゆく、サバイバル能力がなければ、とうてい無理。地元のスーパーのチラシのデザインを専門にするとか、アイディアのカラオケイベントみたいなデザイン祭に出展するだけで満足なら別だけど。

 

自分の国のマーケットだけで、大半の商売が成り立つような大国日本と違って、ヨーロッパは、それぞれの国がとても小さい。国境問わず、仕事が請けられるように鍛えられていてはじめて、数少ない面白い仕事に関わることができる。

 

だから、自立したプロとして仕事をしたい、というのが学生の究極の希望で、その指導役を引き受けるなら、できるだけ現実に触れさせて、いまから鍛えておいてあげるのが、私にできる最高の親切というものだ。

 

東洋のゆばーばに「そんなひょろひょろに何ができるのさ・・・」と、しょっぱなから言われて、たいていの学生はショックを受けるけれど、大学には論外のへにゃへにゃもいっぱいいるので、そのくらい言ってふるいにかけないと、幼稚園になってしまう。ベビーシッターは得意だけど、やるなら、本物のベビーがいい。ひげの生えたあかんぼうなんてやだやだ。

 

へにゃへにゃの筆頭は「これが本当に自分がやりたいことかどうか、まだよくわからない」とか、そういう話をはじめる学生。

 

-あなたがわかってないことを、どうして他人の私がわかるのだ。「自分探し」は休みの日にでも一人でやって。

 

「やりたい方向が見つからなくて」(日本でもよく聞きますね。団塊ジュニア世代の特徴なんだろか。)というのもいる。

 

-そんなことより、できることでも見つけてください。

 

やりたいことより、できること。

 

それが、仕事というものではないのかなあ。プロっていうのは、やりたいことをしている人のことではなくて、できることをやっている人のことだ。自分ができること、で、人の役に立つことをやっていれば、やりたいことなんて、その上にいくらでも沸いてくるものなのに。

 

だいたい、できることもおぼつかないのに、I want で、すべての会話がスタートするのもねえ。たまげるような才能があるわけでもなく、毎日の筋トレすらしていないひょろひょろのくせに、スポンサーわんさか背負って、ワールドカップに出る夢をとうとう語られても困る。やりたいことだの、夢だのは、私にじゃなくて、親兄弟か恋人にでも、語ってほしい。

 

あなたができることを、デザインというフィールドの中でどう生かせるか、それをいっしょにさがすために、わざわざ来ているのだから。

 

こうやって、ぴしゃりである。

 

こういうやり方を、雲をつくような大男のドイツ人教授がやったら、恐ろしいなんてもんではないかもしれないが、こちらは、童顔で学生にまちがえられてばかり、小型の東洋人女性である。このくらいでちょうどいい。

 

これが、虫みたいな私が、ベルリン芸大で「できること」のせいいっぱいというものだ。

 

こうやって1年半、私なりの方法で学生を鍛えてきて、彼らの世代は、実務実習のポジションの確保さえむつかしい、といわれている中で、なんのなんの、卒業前だけど、学部生全員、すでにかなりいい仕事や実務実習のポジションを自力でみつけてきた。それも、ベルリンでだけではなくて、ミラノ、パリ、ロンドン、ミュンヘン、ザグレブ、スペインのマヨルカ島まで行って、働きながら、月に一度、講座があるときに、ベルリンに戻ってくる。現地からのSOSは、メールもあるし、携帯電話もある時代だ。やればできる、とは、このことだ。

 

ここまでくると、もう「ゆばーば」はいらない。今は「ぜにーば」をやっていればいい。

 

-あとは、全部自分でやるしかない。それが、この講座のおきてなんだよ・・・。

 

 

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阿部雅世公式サイト MasayoAve creation www.macreation.org

 


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