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天使の羽 その後

6月、7月は、ヨーロッパには珍しく、雨の日が多くて、森は、これ以上ないほどに、緑が茂った。その間、なつかしいような蒸し暑い日が、何日かあっただけで、8月には入ると、もう秋の気配。ベルリンは夏らしい日のない夏だったけれど、ハンガリーやギリシャでは、死者が出るほどの猛暑だったから、こういう温暖化の時代にあって、夏が暑くならないことは、ありがたいかぎりで、もう誰も文句を言わない。

日本は、8月が真夏本番だけれど、ヨーロッパは、6月、7月が夏本番。8月に入ってすぐに、立秋というのを、こちらでは、暦の通り体感できる。18年もヨーロッパに暮らしても、私は、どうもいまだに「8月が夏本番」という気持ちが抜けきらなくて、6月になると、それ海水浴だ、日光浴だ、と夏本番モードになってしまうヨーロッパに、うまく乗り切れず、さて8月だと思ったら、もう秋の気配で、あれ、あれれ、という夏を、凝りもせず繰り返している。子供の頃から体になじんだ暦というのは、そう簡単に抜けるものではないらしい。もしかしたら、自分なりのカレンダーを、2ヶ月ぐらい早めておくと、落ち着くかもしれないけれど、春が来るのは、やっぱり4月過ぎだから、そうもいかない。

毎日、少しずつ日が短くなっているけれど、それでも、ヨーロッパの夏は、日がとても長い。だから、暗い中、煌々と電飾をつけ、夏服の人が街中を歩いている、というアジアではあたりまえの、夏の夜の光景は、ヨーロッパ人には、とてもエキゾチックに見えるらしい。この春、タイに調査に出かけた学生は、そういう光景が、「とっても不思議」だったと言っていた。なるほどね。確かに、ヨーロッパで暗くなってから、人がわらわらと町を歩いているとしたら、それは、防寒具に身を包んでいる時期だ。

マラソンのような日々をひと段落し、はっと気がつくと、天使の羽は、植木鉢の中で、細々と一丁前の木になりつつある。ブログを更新しない間も、天使はすくすくと育って、新しい緑の葉を拡げている。

調べてみたら、これは銀楓という名前の、カナダ原産の楓だった。学名を、Acer saccharinumといい、あのおいしいメープルシロップが採れる木らしい。そうか、いざとなったら、あの幹に傷をつければ、糖分は補給できるということだな。そういう、いざという日は、きてほしくないが、身の回りに、いざとなったら食べられるものがある、というのは、安心の元だ。

ベランダはないけれど、窓が12枚もある家なので、窓辺で緑を育てている。うちの緑は、いつもどこからかやってくる。友人が、一折くれたものや、どこかの家のベランダから飛んできたのか、綺麗な植物が一折、道端に落ちていたりして、そのままではかわいそうなので、これを育てるのも運命かと拾ってきたものを、最初は水栽培で、根が出たら鉢に移し替えて、そうして育てているものがほとんどだ。

今年の湿気は、植物にはうれしかったらしく、家の中の緑の育ち方も、すごかった。あまり大きな鉢は置けないから、伸びてきた蔓や葉っぱを、ちょんと切って、水にさしておくと根っこが出てくるので、それを鉢に植えなおして鉢を増やしてきたけれど、今年は、水に挿したと思ったら、数日後にはにょろにょろと根っこが伸びていて、あっという間に、窓辺はジャングル。窓の外も森の木が、昨年の1.5倍は育ったのではないかという繁殖ぶりで、去年は木の梢ごしに見えていた、テレビ塔の丸い玉が、今年は、すっかり隠れてしまった。あらためて、雨の力はすごいなあ、と思う。

長い長い夏の名残の8月も、あと、もう少し。ベルリン芸大の仕事は、この8月末で終わり、9月からは、エストニア芸大のプロダクトデザイン学部で、学部長兼主任教授を務めることになった。ベルリンから、エストニア通いの日が、もうすぐ始まる。


阿部 雅世 公式サイト MasayoAve creation  www.macreation.org


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井の頭・浜中

ベルリンのお宅の、環境の良さもあるのだとは思いますが、
きっと阿部さんは緑の親指をお持ちなんでしょうね。
ブログに登場する植物たちはどれもイキイキしていて、
なんだか楽しげな声が聴こえてくるようです。

エストニア芸大の学部長兼主任教授就任おめでとうございます。
蒔いた種が少しづつ芽を出してきたということですね!
by 井の頭・浜中 (2007-08-28 19:37) 

湯本光

東京のヒコ・みづのジュエリーカレッジのファッションアートアクセサリーコースに通っている湯本光です。交換留学でエストニア芸大に9月3日から通います。阿部さんがいらっしゃる事を聞いて是非お会いしたいです。学校にはいつ頃おいでになりますか?突然の書き込みで失礼いたしますが、お返事お待ちしています。

湯本光
by 湯本光 (2007-09-03 21:37) 

阿部雅世

浜中さん、
エストニア通いが始まり、スピリット・ガーデンのエストニア版も、夢の夢ではなくなってきました。準備が整ったら、御連絡します。いつでも飛んでこれるように、インターナショナル庭師としての、腹筋準備運動など、よろしくお願いします。

湯本 さん、
9月25日(火)、10月23日(火)、11月6日(火)の17.30-19.30に、全学部生に開かれた、3回のオープンレクチャー"DESIGN-la cultura di vivre" を予定しています。まもなく、掲示板に案内が出ると思いますが、良かったら聴講にいらしてください。
by 阿部雅世 (2007-09-05 06:35) 

小椋健司(阪神高速)

阿部様

ミラノ工科大学でプーニョ教授や高速道路会社とのミーティングのセッティングや通訳をしていただいてから、もう4年の歳月が経ちました。

今日Web Surfingをしていて、たまたまこのBlogを見つけました。

ご活躍のご様子を拝見し、うれしく思いました。同時に、こんな偉い方に通訳をお願いした私たちの厚顔無恥さを感じるばかりです。

さて、私事ですが、阪神高速のサービスエリアでオーガニックのお野菜を売るプロジェクトや障がい者雇用を進めるプロジェクトに従事しています。
日本では、そろそろ新米が収穫される時期です。日本の有機のお米と平飼いで育った地鶏の卵でつくる卵かけごはんなど、イタリアのスローフードに匹敵するでしょうね。

余談が過ぎましたが、エストニアでの益々のご活躍をお祈りしております。
by 小椋健司(阪神高速) (2007-09-28 17:11) 

阿部雅世

小椋 様、
こちらこそ、その節は、楽しい仕事に関わらせていただきました。道路計画の調査にかかわらせていただいて、通訳までしてしまったというのは、実は、車の運転免許も持っていないのに、こちらこそ冷や汗ものでしたが、普段の仕事では、なかなか知ることのできない道路計画に関わる、さまざまな現実を知る機会になり、とても貴重な体験でした。イタリアを離れて、すでに2年になろうとしておりますが、ベルリンに来ても、エストニアに行っても、すべての道路はローマに通じております。大陸ということを、改めて実感します。お元気で。またいつかどこかでお会いできるのを、楽しみにしています。
by 阿部雅世 (2007-10-01 23:16) 

小椋健司

阿部様

早速のレスポンスの書き込みを頂戴し、ありがとうございます。
ところで、小生の留学中の知人がハノーバーで弁護士稼業をやっております。一度遊びに来いとのお誘いを受けております故、その際には阿部さんにも連絡させていただきます。

ハノーバーは海に面した大学の街との由。アメリカでいうなら、ボストンやケンブリッジといった趣なのでしょうか。楽しみです。
by 小椋健司 (2007-10-05 13:20) 

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