ナノ雪
こんなに長い間雪景色の中で暮らすのは初めてだ。1月からの日照時間は、全部あわせても数時間。年が明けて初めて太陽を見たのは、1月の31日だったか。それでも、ずっと薄明るい感じがするのは、真っ白になった地上が淡い光を反射するからだろう。雪が少なかった去年までの冬は、もっと真黒真っ暗だった気がする。雪は北国の冬の明かりだ。
太陽が出ると、世界が一斉にきらきらと光りだして、ああ、これで春が来るのかしら、と思うけれど、それもつかの間、粉雪よりもずっとずっと細かい乾いた雪が、空中を舞い踊りはじめて、また薄明るい雪景色に戻る。
こんなに細かい雪を見るのも初めてだ。ナノスケールの雪ということで、「ナノ雪」と名づけた。ナノ雪は、コンコンでも、シンシンでもなく、ただその粒子がサラサラと舞い踊り、砂漠の砂が、砂丘を流れるように、積もった雪の表面を流れながら積もってゆく。積もっては凍り、凍っては積もり、それが溶けかかってはまた凍り、その上にまたナノ粒子のパウダーをコーティングをするようにして積もる。
この冬は、エストニア通いや、飛び回ってこなす仕事からしばし解放されて、久しぶりに仕事場に根をおろしている。ミリ方眼の升目を一つずつ塗りつぶしてゆくような、根気と忍耐の平和な仕事に囲まれて、ゆっくりゆっくり通り過ぎてゆくモランのようなベルリンの冬を過ごす。
阿部 雅世 公式サイト MasayoAve creation www.macreation.org
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