ファーブル植物記
もう一年近く前になるけれども、「昆虫記」で有名なファーブルによる「植物記」が、平凡社ライブラリーの文庫として出版された。私は、虫や草木を観察するのが、いまだ面白くてたまらないファーブルファンなので、これは、万歳したくなるくらい嬉しい本。
表紙は、安野光雅さんの絵。安野光雅さんは、世に知られたファーブルの大ファンで、ファーブルのオリジナル昆虫記をフランスの蚤の市で獲得されたこともある(羨ましい!!!)という方で、私は安野さんの絵と本の大ファンでもある。翻訳は、先月に亡くなられてしまった動物行動学者の日高敏隆さんと林瑞枝さんの手によるもの。私の世代は、少なからず日高敏隆さんの本を通して、動物や昆虫の行動の不思議に目覚めさせらている。 この点でも、もうひとつ万歳の本。
昨年入手して以来、この本は、愛読書の本棚から時折取り出しては開いてみる大切な一冊になり、今年のAXIS誌4月号の「本づくし」というコーナーでも、紹介させていただいた。パソコンの中のファイルを整理していたら、その原稿が出てきたので、今日は、それをご紹介。
ファーブル植物記 上・下
著者 J.H.ファーブル(Jean-Henri FABRE) 日高敏隆、林瑞枝 訳
触覚の美をデザインに求めて、時の過ぎること20年。ふわふわや、けばけばや、ちくちくや、すべすべ・・・、そういう自然の中に隠された膨大な技術を、何とか身につけられないものだろうかと、おろおろと自然観察を続けている私に、なんとも嬉しい教科書が日本から届いた。「ファーブル植物記」。
「ファーブル昆虫記」の著者として広く知られるファーブルは、1823年生まれ。苦学してアヴィニヨンの師範学校を出て、小中学校の教師を務めるかたわら、独学で物理、数学、自然科学を学び、学士号と理学博士号をとった異色の学者である。ファーブルが独学で学んだ分野は、科学、物理、数学、天文学、地理、地学、動物学、植物学、昆虫学、自然科学、経済学、技術工学、そして、文学にまで広がり、ファーブルは、そうして得た高度な知識を、誰にもわかる易しい言葉におきかえて、子供のための読み物として、書き記した人だった。ファーブルは、生涯、自然の中の不思議を観察し、実験し、感動し、その感動を自分の言葉で伝え続けた人であり、実に90冊近い教科書を、子供のために書いた。また、ファーブルは、その観察を絵におこし、歌にした、画家であり、作曲家であり、詩人でもあった。
子どもたちに、という前書きで始まる、「ファーブル植物記」の原題はHistoire
de la bûche; Eécits sur la vie des plantes(樹の話 :
植物の生命に関する記述)。1867年、ファーブル44歳の年に、昆虫記よりも10年以上前に、子供のための植物学の教科書として、出版されたものである。
-いつかきっと出会うが、出会いはきまって早すぎる厳密な科学を、きみたちに少しずつ無理なく手ほどきしようとおもって、「樹の話」をしたところ、なにより嬉しいことに、きみたちは熱心に耳を傾けてくれた。きみたちの年ごろはほんとうに素直だからだ。それなら、きみたちと同じように金髪でいたずらっ子のほかの子どもたちも、やはり「樹の話」に興味を持ってくれるだろう。-(前書きより)
当時のファーブルの年齢をすでに超えてしまった、黒髪で出会いの遅い私も、この本の前では、ファーブル先生の横にちょこんとすわった、ひとりのちいさな子供となって、その話に耳を傾ける。ファーブル先生は、芽が、茎が、樹皮が、根っこが、葉っぱが、どうしてそうなっているのか、たくさんの面白い例をひきあいにだし、分かりやすい絵を添えて、さらには、昔の王様の話や、伝説まで持ち出して、実に詳しく教えてくれる。ファーブル先生は、それだけでは足らなくて、料理をしようとにんにくを前にした私に「袋の一つを縦に割ってごらん」とさえ言う。そして、言われた通りに割ってみると、そのなかに隠されている秘密は、まったくもって、ファーブル先生が説明した通りで、それは140年たった今も、全然変わっていなくて、本当に驚いてしまうのだ。
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