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ドイツ語満腹道場

昨日、今日と、ベルリンでは、日中の気温が15度を超えて、まるで春の陽気。昨年の今頃は、マイナス15度を記録して、森も、小道も、キンキンに凍っていた。たくさん雪が降ったわけではないけれど、気温がマイナスだと、太陽が出ても雪が解けない。森の中の水路や池には、厚い氷が張って、スケートができた。凍った雪の上には、たくさんのウサギの足跡が、ちいさな鋳型のように凍りついていた。白々と夜が明けるころ、冷たい水の中に泳ぎだすように、ひっそりと凍った空気の森を散歩するのは、とても素敵だった。小道のあちらこちらに、芸術的な雪だるまが、モランのように立っていて、餌場に行けば、かならず赤い尻尾のリスがいた。今年も、そういう冬を楽しみにしていたのに、すっかり拍子抜けの暖かさ。まだ日は短いから、冬なのだけれど、日中の外を歩くと、うっかり、体のあちこちから、芽が出てしまいそうだ。本当に今年は、冬が来るのかしら。

 

新春の決意が消えないうちに、改めてドイツ語に取りかかる。ベルリンで、取り組みたいプロジェクトは、山のようにあるのだが、このへんで、ともかく言葉を何とかしないと、お話にならないよう。外付けハードディスクのように、増設できる脳みそがあればいいのに、このメモリーいっぱい旧式の脳みその中に、むりやりいれようとしているのだから、立ち上がりは遅いし、フリーズするし、もしかしたら、もう無理なのかしら?と100回くらい思うけれど、人が言っていることはわかるようにはなってきたのだから、ここで、単語も例文も、一気にごくごくと飲み込んでしまえば、なんとかなるのだ・・・、と信じて、また、何十回目かの再挑戦。

 

イタリア語は、まともに勉強しないまま、生活と仕事をしながらの現場実習で使えるようになってしまったから、ドイツ語もそれでできないこともなさそうだが、そうすると、また16年もかかってしまうわけで、あと16年たったら、私は60歳・・・。それからやっと、「できました」と日本に戻るようでは、本物の浦島太郎子になってしまう。それもねえ。いくらマイペース体験学習型の私とはいえ、今回は、もう少し効率よく行きたい。

 

昨年1年は引越しでくたびれたからさぼっていた、だから、まだろくにしゃべれない、と、前のブログで言い訳をしたけれど、実は、私のドイツ語チャレンジ暦は長い。大学の必修で、ドイツ語があって、そのあと、何度かベルリンに通ったから、思えば、1986年あたりからは、つまり、20年!くらいは毎年、決意をして、3日くらい、かなり真剣に勉強しては、そのまま3日坊主で挫折・・・・という、やめたいけれどやめられない喫煙者の禁煙のようなことを、ずっと繰り返してきている。

 

89年に、イタリアに渡ったとき、イタリア語を何とかせねばなあ、と思って、本屋に寄ったら、イタリア人がドイツ語を勉強するためのテキストブックが、カセット3本ついて、500円だったか、大安売りになっていたので、あ、これで勉強したら、一石二鳥、イタリア語もドイツ語もできるようになるかも、と、思って買った。結局、そううまいこといくわけはなく、混乱を極めるだけの作業で、最初の数ページに意欲的な書き込みがあるまま、あとは、おみくじのごとく、年に一度開かれる時以外は、いつも本棚の隅に、「私の気持ち」を表現する物体として、鎮座し続けた。

 

このテキストブックは「REISEPASS FÜR DEUTSCHLAND -ドイツへのパスポート」というタイトルで、南ドイツにあるウルムという市の大学の編集で、自習学習するイタリア人のために出されている本である。パスポートというくらいだから、挨拶から始まって、駅で、とか、ホテルで、とか、電車にのる、とか、旅行者に必要な会話と演習の15チャプターからなるのだけれど、最初のチャプターは、「グリュス ゴットGrüss gott!という挨拶で始まっていた。90年に、ミラノからベルリンの友人を訪ねたときに、その最初のページあたりを、泥縄式に電車の中で丸暗記していって、そう挨拶したら、一瞬の間をおいて大爆笑。「どこで、ドイツ語習ったの?」と言われてしまった。「グリュス ゴットGrüss gott!」を直訳すれば、「神のご加護を!」と言うような意味で、カトリック教徒の多い南ドイツでしか、使われない挨拶だったのだ。東京にやってきた、ヨーロッパ人が、いきなり、「おおきに!」と言ったようなものかもしれない。

 

「だってだって、大学が出している本よ」と思ったけれど、日本のような形で「標準語」が確立されている国ばかりではないことを、知らされる。そういえば、イタリアでも、フィレンツエの語学学校では、チンクエチェント(500)というのを、シンクエシェント、カーサ(家)というのを、ハーサ、と、ひざが抜けるような発音をし、これが正統派、と言っていたっけ。ドイツ語といっても、いろいろあるのだ。

 

今、この本を開くと、お金の単位は、ドイツマルクで、でてくるドイツの地図は、東ドイツと西ドイツに分かれていて、この本の中で旅行するのは、もっぱら西ドイツの中、もしくは、冬のスキーで、オーストリア、スイスまで。ついこの間までは、そういう時代だったのよねえ、と、あまりしっかり開かれた形跡はない割には、紙がたっぷりと焼けて黄ばんできているページを見ながら思う。

 

96年には、シュトットガルトのアカデミー・シュロス・ソリテュードというアーティスト・イン・レジデンスに招聘されて、7ヶ月ドイツで暮らしたので、これは、ドイツ語を習得するチャンスだったはずなのだけれど、同時期、ここで暮らしていたフェローのほとんどは外国人だったし、ソリテュードというのは、その名の通りの丘の上の離宮で、町とは隔離されていて、買い物に街に下りてゆく以外は、ほとんどアトリエを出ないで、いろいろ作っていたから、ドイツ語に浸るという感じではなかった。

 

それでも、ソリテュードには、週に一度、哲学者のハリー・ワルターさんが、アルバイトで、フェローのためにドイツ語を教えに来ていて、生徒のレベルにあわせたレッスンをしてくれた。最初は、15人くらい参加者がいたが、7ヶ月の間に、10人になり、8人になり、5人になり、3人になり、タクシーを呼んだり、イエローページで探した店に電話をして、XXはありますか、とか、XXはどこにあるかご存知ですか、とか、これは私の猫です、とか、レジ袋ください、くらいは言えるようになったけれど、最後のレッスンの日は、私1人だけになってしまったので、私のレベルにあわせて、というハリーさんの心遣いか、動物園に連れて行ってもらって、あれはライオン、これはラマ・・・とやって、結局は、旅行者のワンフレーズから、あまり進展しないまま、7ヶ月を終えた。

 

ハリーさんのレッスンの時にもらった教科書は、「DEUTSCH EINS FÜR AUSLÄNDER –外国人のためのドイツ語1」という本で、 レッスンではほとんど使わなかったけれど、この内容がまあ、次から次から、人生の問題ばかりが山済みの場面の会話ばかりだった。

 

夕食をせっかく用意したのに、仕事、仕事、で帰りが遅いだんなさんへの愚痴。だんなさんのいいわけ・・とか、コニーは、会社で経理の仕事をしています。今日は、会社に行きたくない。仮病を使ってサボってしまおうか。ええい、さぼってしまえ、といって会社に電話したら、なんだか気分が良くなり、買い物に出かけて、夕方映画館に入ったら、なんととなりに、自分の上司が!・・・とか、のどが痛い、頭が痛い、気持ちが悪い、医者は1週間は寝ていろといっています、そうしたら、偶然待合室で古い友達に会って、コーヒー飲んですっかりおしゃべりしてきちゃった。あなた、それぜんぜん病気じゃないじゃない!・・・とか、隣の部屋の音楽がうるさい、上の子供もうるさい、大家もうるさい、ああ、気が狂いそうだ、とか・・・。

 

ドイツに住む外国人のため、の本で、旅行者のための本じゃないことは明らかだけれど、ここまで生活感どっぷりでなくても・・・、という会話例文ばかりの本だった。カセットもついていたが、これが、各章ごとに、タッタラタッタッター、と、派手な音楽のイントロがついてくるし、ダダーン、ジャジャーンと効果音は入っているしで、うるさくて仕方がないので、その後、この本は、開いていない。

 

ソリテュードには、コツコツを何度も挫折した、勉強しかけの前の本「REISEPASS FÜR DEUTSCHLAND - ドイツへのパスポート」を持っていった。持っていって、ずっと開かないでいて、ソリテュードから、ミラノに戻る日に、そっと開いてみた。そうしたら、そこに書いてあることは、全部わかるようになっていた。書いてあることが、自分から言えるわけではないけれど、書いてあることはわかる。目には見えないようでも、そうやってじたばたするうちに、ちょっとは進歩していたわけだ。

 

1年に3日でも、10年続ければ、30日。足せば1ヶ月は、真剣にやったことになるわけで、そういう、切れ切れの点線でも、続ければ、少しは進歩するのだ、長ーい目で見れば、それも継続、のらりくらりと続けるが勝ちよ、という境地に達して、それ以来、がんばるわけでなく、でも、あきらめるわけでもなく、時々思い出したように、ちょっとだけ勉強して、気がつけば20年、というのが、私のドイツ語学習歴。ドイツに住むわけでなければ、この調子で、のらくらと、ちょっとしゃべれるくらいでいいのだけれど、住むことになってしまったから、ちょっとここらで集中講座は悪くない。といっても、語学学校へ行っている暇はないから、しかたがない、仕事の前の朝練である。朝5時に起きて、いそいそとやる。

 

心機一転、新しい本を使うことにした。といっても、これ以上、使いかけの本棚の肥やしを増やしても仕方がないので、今回は図書館からテキストブックを借りてきた。「DEUTSCH IN 30 TAGENS / GERMAN IN 30 DAYS - 30日でものにするドイツ語」。英語との対訳で、日常会話が詰まった30章。使えそうなフレーズがたくさんある。時代が変わって、カセットではなく、CDがついている。変なイントロの音楽なし、効果音もなし。Langenscheidtランゲンシャイドという、辞書を出している出版社の本なので、全編通して、ホッホドイチュと言われる標準語、北ドイツの言葉の会話である。

 

これを、レッスン1のページから、使えそうな例文を、かたっぱしから丸飲みする。断食道場ならぬ、満腹道場。苦しいけど、文法は苦手なので、音で丸覚えしてゆくしかないのだ。十何年ぶりかに、単語帳なども作った。図書館の貸し出し期限は1ヶ月だから、まじめにやれば、次に返しに行くまでに、基本がみっちり身につくはずで・・・、で・・・、でる、です、でむ、でん!

 

 

阿部 雅世 公式サイト MasayoAve creation  www.macreation.org


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hsba

阿部さん、こんにちは。15度とは信じられない陽気ですね。ハンブルク出身の人と一緒にバスに乗った時、運転手さんから「グリュスゴット」と挨拶されて、後で「“グリュスゴット”にはすごい違和感があるんだよね」と言っていたことを思い出しました。ぼくも今年こそちゃんとドイツ語の勉強を始める……つもり。
by hsba (2007-01-11 16:21) 

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