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イタリアで身につけた健康法

外国暮らしが長くなって、ずっと日本の食事から遠ざかった生活をしている。それでも、思えば17年もの間、病気ひとつせず、人間ドックに入れば医者も驚く極上の健康数値を保って、デザインという、やたらと体力と気力と瞬発力と持久力の必要な仕事を続けてこられたのは、ひとえに16年のイタリア生活で身につけた3つの食習慣のおかげだと思っている。

 

それはどんなことかというと、ひとつめは、冷凍食品やインスタント食品のような、できあいの便利な加工食品は使わずに、原材料からちゃんと料理する習慣。

 

イタリアでは、原材料は豊富に売っていても、便利な加工食品がとても少なかった。あっても、買う気のうせる品揃え、というか、種類も少なくて、しかも高くて、まずかった。だから、料理どころでないほど忙しい時も、そういうものに流されずに、極端に言うなら、野菜や卵をゆでただけでもいいから、それでも、原材料を料理して食べる、そういう習慣が、いやおうなく身についた。

 

ふたつめは、化学調味料や人工的な味付けのものは使わずに、よいオイルとお酢、塩、コショウなどの自然なスパイスで、料理の味つけをする習慣。

 

イタリアでは、極上のオリーブオイル、ビネガーなら、5mの長さのスーパーの棚が上から下まで一杯になるほどの種類があったけれど、いわゆる化学調味料や、できあいのソース、ケチャップ、マヨネーズみたいなものは、あって1種類くらいが、隅のほうにあるだけで、ほとんど存在感がなかった。サラダのドレッシングは、オリーブオイル、ビネガー、塩、コショウをちゃっちゃっとかけて、その場で混ぜてつくるものだったし、肉を焼いても、できあいのソースなんかはつかわず、塩、胡椒にレモンをぎゅっと絞れば、それでおいしい逸品だった。

 

そういうものに慣れてしまったら、化学調味料系のものや、人工的な味のついたものは、薬臭さが鼻について、とてもおいしいとは思えなくなってしまった。今となっては、できあいのソースや、瓶詰めのケチャップ、チューブに入ったマヨネーズは、気味が悪いだけで、よそで出された食べ物に入っていれば、まあ食べてしまうけれど、もう食欲をそそるものではない。

 

それから、3つめ。それは、変な時間にひとり外食をしない習慣。

 

イタリアは、レストランやカフェが、昼は昼、夜は夜の決められた時間しか、食事を出さないので、たとえば、夕方4時半とか、夜中すぎに、一人でチャッと入って、食事ができるような場所が、ほとんどなかった。食事をしそびれて、中途半端な時間に何か食べたいと思っても、ひからびた昼の残りのサンドイッチが、バールの片隅に残っているくらいで、あとは、カロリーのガソリンスタンド的なファーストフードしかなかった。さらには、イタリア人というのは、一人でいる、というのが、とても苦手な人種なので、おいしいものを出すような店で、一人で食べている人、というのが、ほとんどいない。一人でレストランで食事などしようものなら、何かあったのか、とでも言うようにじろじろ見られるし、果ては、一人で食べるなんてさびしいでしょう、といわんばかりに、ボーイはやたらと寄ってくるし、下手をすると隣のテーブルに呼ばれる、という有様で、落ち着いて「おひとりさま」ができる状態ではない。イタリアに行った当初は、不便だなあ、と思ったけれど、よく考えれば、ふつうの食事の時間に、食事もできないような生活をしているほうが、間違っているのだ。そういう生活を長く続けて、体にいいわけがない。

 

自分で料理していると、どうも、使う材料の組み合わせや味が偏ってくるので、たまに、おいしいレストランに食べに行って、新しいメニューやレシピの開拓するのは、私の楽しみの一つだけれど、そういうのではなくて、疲れて料理をするのも面倒で、ええい、その辺に入って、何か食べてしまえ、というのは、おなかは膨れても、どういうわけか、もりもりと沸いてくる元気につながらない。ということは、やっぱり、あまり体によくないということだ。食べたら元気が出なくては。だから、外で食べにいく、というのは、人を誘っての楽しいイベントにはしても、面倒の肩代わりにはしない習慣が身についた。

 

イタリアでは当たり前だったそんな習慣を、あらためて思うのは、ベルリンへ引っ越してきたら、良くも悪くも国際都市だけあって、便利な加工食品は山のようにあるし、何時にでも一人で入ってひとりで食事ができるような場所も、町中にあるからだ。

 

実際のところ、ベルリンは、流通がよいのか、材料で言えば、野菜も果物も、ずいぶん南のものまで十分豊富に手に入る。不健康の反動か、BIOと認定された、無農薬で育てたおいしい野菜も、ふつうのスーパーで手に入る。牛乳、ヨーグルトからチーズまで、質の良い乳製品も豊富だし、お芋でも、肉でも、塩、胡椒だけで、十分おいしく食べられるような、いい素材がたくさんある。パスタ、オリーブオイル、トマト、バジリコ、バルサミコ酢などのイタリアの基本食材なら、普通のスーパーマーケットで手に入る(どういうわけか、イタリアで買うよりも、安いことがある)。さすがに、日本のお米は特別な店に行かなければなさそうだけれど、タイの香り米や、インドの細長いお米なら、どこのスーパーにもある。さらには、ロシア、トルコ、アラブ、インド、ベトナムあたりの香料や素材まである。だから自分で料理する分には、イタリアにいたときよりも、料理のバリエーションが増えたくらいだし、アスパラガス、じゃがいも、りんご、という北の野菜果物は、こんなにおいしい食べものだったのか、と、目からうろこ、というよりも、のど元からうろこが落ちるほどおいしい。おかげでベルリンに移っても、相変わらず、おいしいものを毎日作って食べる生活を続けることができて、これならやっていけそうだ、とほっとしているけれど、それでも、スーパーマーケットの中の様子は、イタリアとずいぶん違う。一般的なドイツ人の食生活は、イタリアに比べると、かなり堕落しているようで、イタリアでは見なかったような、見るからに不健康な体型の人も多い。

 

スーパーの中で食品が占めるスペースの割合が、一般的な家庭で食べる食品の割合に相当する、と聞いたことがあるけれど、ドイツへ来ると、野菜や果物のスペースが貧弱な割には、乳製品、肉のスペースが、どっと大きく、冷凍食品やインスタント食品、できあいのソース類が、かなりのスペースを占めている。なににかけてそれだけ消費するのか知らないが、ケチャップだけで、2mの棚が、上から下までびっしり埋め尽くされている。種類もブランドも多くて、洗剤かと思うくらいの大きさのボトルに入っているのもある。マヨネーズもしかり。何とか風ドレッシングとソースに至っては、よくもこれだけ人工的なまずいものを次々と考えるものだ、と、げんなりするほどある。その類の食品を、山のようにカートに突っ込んでレジに並んでいる人は、一様に不健康な体つきをしている。

 

その手の食品につきものの、人工調味料は、慣れてしまうと気にならないというか、常習化する毒のようなものだから、食べ物に関して言えば、「便利」というのは、ずいぶん危険なものなのかもしれない。イタリアというところは、イタリアの料理が飛びきりおいしいとはいえ、食べることに関しては、途方もなく保守的な場所だった。でも、生身の体というのは、保守的なのだから、イタリアは不便でも正しかったなあ、と思う。

 

そのイタリアは離れてしまったけれど、せっかく16年もかけて、そういう危険な食品を、おいしいと思えない体質になったのだし、デザインも何も、私の仕事は、この極上の健康の上に成り立っているのである。これを損なうわけにはいかない。だから、イタリアで身につけた3つの食習慣は、おいしく、心して、これからも守っていこうと思っている。便利には流されるまい。

 

 

 

阿部 雅世 公式サイト MasayoAve creation  www.macreation.org

 

 

 

 


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まるろう

 まるろうこと杉浦です。最近、欧州から遠ざかり、すっかりアジアの化学調味料にまみれているような気がします・・・こんな不健康な生活を送っていてはいけない、と感じさせられました。生活改善しまあす。
by まるろう (2006-11-07 16:02) 

阿部雅世

おお、杉まるさま、
今日食べたものの結果は、10年後に病気もしくは健康として、突如出現するそうなので、自分の未来を明るくするためにも、やっぱり少し気をつけていたほうがいいですね。また宇宙船地球号の新プロジェクト、おいしく立ち上げてください。こちらは、いつでも乗船準備OKです。
by 阿部雅世 (2006-11-08 20:33) 

A* (阿部暁子)

雅世さん、こんにちは! はじめてお便りします。私はA*こと阿部暁子です。
イングランドのUniversity College for the Creative Artsにグラフィックデザインの修士の学生です。ついさきほど、雅世さんのお名前のスペルを拝見してこちらにたどり着きました。明日、お会いします。
私はインタラクティブや映像のほうをやっているので、お恥ずかしながら雅世さんのことは存じませんでした。が、Hapitic Design大好きです。イングランドに来て2ヶ月も経っていないのですが、日本にいるときは携帯電話のデザインが触覚、視覚、インターフェイス、
どの点をとっても面白いと思いました。(深澤直人さんのデザインなど)クラスにもHaptic方面の学生が何人もいます。ぜひ、いらっしゃってください!! 本当に楽しみにしています。

ところで。。。同じ名字ですね。
「Abe」で「アベ」と読んでもらえた経験はありません。いつも「エイブ」です。私も「Ave」を名乗りたいです。生まれる前は下の名前は「マリア」になる予定だったのですが、両親は「やっぱりギャグで名前つけるのはやめよう」ということで、なぜか「アキコ」になってしまいました。

ヨーロッパに不慣れな日本人としても、お会いできるのを楽しみにしています。日本食が恋しいです。こちらの食事は脂肪の多いものが安く、魚が少ないので、なんだかブヨブヨ太ってきて本当にデトックスしたい今日この頃です。
長々失礼しました。

明日、本当に楽しみです。どうぞよろしくお願いします。
by A* (阿部暁子) (2006-11-08 20:53) 

尾崎史和

ご無沙汰しています。
実は最近の私の興味が今回お書きのブログと全く同じですので、思わずキーをたたいています。うちの末の息子が発達障害があり、原因はわからないのですがやはり食べ物にも問題がありそうなので、数ヶ月前から徹底的に食事を見直しています。玄米食を中心にして、化学調味料やインスタント食品(特に「調味料(アミノ酸等)」と原材料に書いてあるもの)は徹底的に排除。サラダもバルサミコ酢とオリーブオイル塩コショウのミラノがなつかしくなる味付けで楽しんでいる結果、最近では、化学調味料の入っているものの味がわかる様になってきておいしくないと思う様になっています。でも、日本のスーパーではあまり買えるものがなくなってしまいました。こういう環境が問題ですね。最近精神的に問題を抱える人がとても増えている(特に子供に)のも、こんなことが原因のひとつかもしれません。
by 尾崎史和 (2006-11-28 19:16) 

阿部雅世

尾崎さん、
ご無沙汰しています。今日この頃の食べ物は、かなり怖いものがありますね。日本のコンビニで、原材料を入手するのは、至難の業、というのには、私も気づきました。あまり神経質になっても、きりがないし、仕方のない部分もありますが、でも、子供の食べ物には、できるかぎり気を使っていたいものです。あとは、人と楽しく、おいしい!、本当においしい!、と思って食べられる環境を作り出すことで、ある程度の悪いものは、解毒できるように思っています。
by 阿部雅世 (2006-12-04 21:39) 

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