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晩秋の森とニュートンのりんご

昨日からヨーロッパは冬時間になって、日曜日の間に、時計を1時間戻す。それでも、月曜の朝6時は、まだ真っ暗で、ちゃんと時計を正しく直したか不安になる。ヨーロッパでは、夏時間を採用していることと、日本よりもずっと北にあるせいで、真夏は夜10時すぎまでたっぷりと明るいのに、真冬は午後4時過ぎにはどーんと真っ暗になってしまう。9月から10月にかけては、坂道を転がるように、目に見えて日が短かくなった。先週は、GLASSTEC2006 という「国際ガラス製造加工機材展」なるものを見に行くために、朝始発、夜最終の飛行機で、ベルリン-デュッセルドルフを往復した。真っ暗なうちに出かけて、真っ暗な中を帰ってくるという日帰り。帰ってきた翌朝、目が覚めると、窓の前の大木の葉っぱが、たった1日見ないうちに、全部黄金色に変っていた。葉っぱが乾いてくると、葉っぱの表面が光を反射しやすくなるのか、それとも、細かい朝露がまだ葉っぱの表面に残っているのか、朝日をうけると、葉っぱはきらきらと光って、まるで、たくさんの秋の子供たちが、こちらに向かって一斉に手を振っているようだ。

 

日曜の朝は、風が強かった。抜けるような晩秋の青空の中を、いろんな雲が速いスピードで流れてゆく。森の中は、残り少ない秋をふるいにかけるように、風が一凪ぎするたびに、黄金の枯れ葉吹雪が舞い、小道は、色鮮やかな枯れ葉のじゅうたんだ。じゅうたんの中には、場所によっては、驚くほどのどんぐりが隠れていて、その上を歩くのは、足のうらに気持ちがいい。

 

久しぶりにゆっくりできる日曜の朝なので、森の中で、綺麗な葉っぱをたくさん拾い集めた。綺麗な葉っぱを集めるなんていうのは、きりがないことなのだけれど、こういう美しいものにただひたすら心打たれているほど、気持ちのいいことはない。これだけ葉っぱがあって、同じ葉っぱや醜い葉っぱが一枚もない、というのは、どうしたことだ。全部ため息が出るくらい美しい。鮮やかな緑を残したものから、黄色、赤、茶、それに、灰色や黒が混ざり、そうかと思うと、驚くようなピンク色に紅葉した葉っぱがある。そういう色や模様や組み合わせがどうしてできるのか、それは偶然ではなくて、条件とロジックがあるのだから、デザイナーとしては、そういう物理的な秘密を心底知りたいなあ、と思って眺める。葉っぱの取れたところのディテールなど、うなりたくなるほど、どれもよくできている。

 

葉が散るにつれて、緑で覆われていた黒い木の幹や枝が見えてくるようになったせいか、赤いふさふさとした尻尾を揺らしながら枝を渡ってゆくリスをあちこちで見かける。尻尾は、体と同じくらい大きいけれど、尻尾の正味というのはわずかなもので、逆光で見たリスの尻尾の正味は、鉛筆よりも細いくらいで、そこに、細くて長い毛が、わっと逆立って生えていた。尻尾が細いリスなんて見たことがないけれど、寝る時は、鉛筆みたいに細くして寝るのだろうか。それとも、いつも毛が立ったままなのだろうか、静電気で、ぱちぱちしてイヤ~、には、ならないのだろうか・・・。聞きたいことはたくさんあるが、リスは教えてくれずに、あっという間にどこかに消えてしまう。

 

紅い木の実がたくさんなっている木があって、ここぞ、という構図のポイントに、黒い小鳥がいて、その小鳥が赤い実を食べた瞬間など見てしまった日には、それだけで、この先2週間分くらいは幸せな気持ちになる。赤い実は、森のあちこちにある。ノバラの小さな赤い実から、親指大の小さなりんごのようなものまで。小さなりんごの実を見ていたら、96年にシュトットガルトのアカデミー・シュロス・ソリテュードというアーティスト・イン・レジデンスに住んでいた時のことを思い出した。

 

ちょうど季節は今頃だったか、りんごの木が何本か植わっている裏庭に面した、1階の部屋に住んでいる作曲家の部屋で人を待っていて、窓から庭を眺めていたら、突然、めりめりめりめりっと、と枝を裂くような音がして、続いて、ごんっと、何かが地面に落ちる音がした。なんだろう、と窓を乗り越えて、外に出て見ると、落ちていたのは、りんごだった。

 

それまで、りんごとか、果物が木から落ちる、というのは、鉄棒に長い時間ぶら下がっていると、だんだん手がしびれてきて、もうだめだ、と手を離してしまう、・・・あんな感じで、ぱっと手を離すようにして落ちる。そんな風に想像していたのだけれど、そんなものではなかった。りんごは、重力という、地球のものすごい力に引っ張られて、枝から引きちぎられるようにして、地面に落ちるのだ。ニュートンが、りんごが落ちるのを見て、万有引力を発見した、というのは、きっとこれを体験したに違いない。すごいものを見てしまった、と、ひとりでドキドキしたのは、もうすでに10年前のドイツの秋だった。

 

 

 

 

阿部 雅世 公式サイト MasayoAve creation  www.macreation.org

 

 


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まるろう

いやいや、お久しぶりのブログ。毎日まだかまだかとチェックをしてまひた。ところで、今回は漢字が多いですね。久方振りにゆとりある時間を持たれたという感じが伝わってきまふ。では、次回を楽しみにしております。
by まるろう (2006-10-31 18:09) 

阿部雅世

まるろうさま、
お待たせしまして、申し訳ない。今月は、もう少し頻繁に更新できるかと思いますが、書いたり書かなかったりでも、細く長く続けるのが、当面の低い低い目標です。漢字が多いのは、ひとえにパソコンの自動変換のおかげです。手で書け、と言われたら、どれだけ書けるものか・・・・読めても書けない漢字の数は、降り積もる落ち葉のごとく堆積して、大変恥ずかしい状況です。
by 阿部雅世 (2006-11-01 20:34) 

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